M35陸軍ヘルメット (Stahlhelm 35)

本日はM35スチールヘルメット(Stahlhelm 35)をアップします。過去にも何度か取り上げていますが、今回はあるコレクター様からヘルメットに関する大変興味深い話を伺ったので、その内容を中心にブログを進めたいと思います。
ここではコレクター様を仮にMさんとさせていただきます。
            M35DDa.jpg
Mさんもタミヤの1/35ミニチュアシリーズのプラモデルがきっかけでドイツ軍ファンになったそうです。

M35t.jpg
多くのモデラーと同様、色に拘るMさんはタミヤ指定色のフィールドグレイと頭の中のイメージとのギャップに悩みました。
タミヤが指定する色(フィールドグレイ)でヘルメットを塗っても何かが違う、本物はどんな色なんだろう?と

実は私にも似たような経験があります。
ご存知の通りパッケージの裏には塗装見本が載っているのですが、ヘルメットはフィールドグレイで塗るよう指定されているのにも関わらず、あるセットは青っぽく、また別のセットは緑に近い色になっており統一感がありませんでした。
当時、色温度などという言葉を知るよしも無い少年にとって、果たして本当の色はどれなのか塗るたびに悩んでいました。

12087931_o2.jpg 15964859_o2.jpg

さて話をMさんに戻します。

中学生になったMさんは当時渋谷にあったアルバンを訪れ、夢にまで見た実物を目にし大変衝撃を受けます。
「これが実物・・・欲しい」 
しかしながら当時中学生だったMさんに「日本一の高級軍装店」と言われたアルバンのヘルメットは高根の花でした。
そらからというもの、タミヤのパッケージのイラストを見てはヘルメットに憧れる日々が続きました。

M35v.jpg
昭和54年(1979年)当時の広告。現在と遜色ない価格です。

一方、エーデルマン少年は、関西、もといドイツの田舎で実物とは無縁の生活を送っており、フィールドグレイにブラックやガンメタを混ぜることで実物(っぽい)色に近づける試行錯誤を繰り返していました。
(そして、だんだんアルゲマイネに近い色になっていく・・・)

Mさんはその後も品揃えでは右に出るものはいないと言われた東京ガンシップに通い本物に触れ目を養っていきます。

gunship.jpg
やがて念願の実物ヘルメットを手にしたMさんは、ヘルメットコレクターとしての道を着実に歩んでいきます。

ちなみに社会人になって上京したエーデルマンが初めて訪れたドイツ軍装店がガンシップです。
当時M35とM40の違いも判らない私にとって敷居の高いお店でしたが、店長(らしい人)に、とても親切にしていただいた記憶があります。(その時はさんざん質問して結局何も買いませんでした。ごめんなさい!)

では、そろそろヘルメットの紹介に移りたいと思います。
 
こちらはドイツ陸軍が使用したM35スチールヘルメットです。ET(Eisenhüttenwerke社)製、シェルサイズは64cmです。
1943年8月23日付け通達で廃止された国家鷲章のデカールが貼られています。
塗装は戦前のヘルメットによく見られる黄色みの強いフィールドグレイ色で「アップルグリーン」と呼ばれています。

なおMさんによると、ドイツ本国には元々アップルグリーンに相当する呼称は存在していないようです。本来のフィールドグレイのペイントが長年の保管の間に、油煙によって黄色みがかったのがアップルグリーンに見える為、後年アメリカ人コレクターによって付けられた「造語」では無いかと。
(ドイツ軍ヘルメット研究の第一人者Goodapple氏はその著作で戦前のM35のペイントを parade finish light green と命名してはいますが、アップルグリーンという呼称は出てこないとのこと)
M35DD2.jpg  
よって厳格なコレクターはアッ プルグリーンという呼び方はせず、フィールドグレイもしくはフェルドグラウで通すとか。
これは全然知りませんでした。。。

  M35DD3.jpg  
反対側には国家色のデカールが貼られています。国家色は1940年3月21日付け通達で廃止されたので、このヘルメットはそれ以前に作られたことになります。

M35f_20121008104448.jpg M35e.jpg
デカールのクローズアップ写真です。国家色のサイズはタテ40mm x ヨコ33mm、国家鷲章は38mm x 31mmです。
一種類に見えるデカールも細かく分類するといくつか種類があるようです。
国家色は陸・海・空軍、国家鷲章は陸軍と海軍のヘルメットに貼られました。(ただし海軍の鷲章は黄色みを帯びている)
また淵を見ると薄っすらと色が違うことが判ります。
これはデカールを保護する目的で製造工場で行われたラッカーコートの皮膜です。


M35n.jpg

ヘルメットのM31ライナー(内装)です。
ドイツ軍ヘルメットのライナーシステムは非常に優れており、通常8つある革タブ(海外ではfingerとも言う)が頭にしっかりと密着し、激しい動きでもずれないようになっています。


M35k3.jpg  

上部から見たところで、矢印の位置でライナーバンドがヘルメット本体(シェル)にリベット留めされています。

M35l.jpg
M35スチールヘルメットのリベットは真鍮もしくはニッケル製で、錆止めの亜鉛メッキがされています。
M35m.jpg
このヘルメットに付いているライナーバンドは1937年製でチンストラップ取り付け部が写真の通り一重になっています。この部分は非常に破損し易く1938年にライナーを二重にする改良が行われました。

下の写真でも判るとおり、片方のライナーバンドが破損しています。。。
M35w.jpg
初期のライナーはシープ/ゴートスキンで作られていましたが、その後、牛・豚革に置き換えられます。
丸で囲まれた56のスタンプはライナーのサイズが56cmという意味で、シェルサイズ64cmのヘルメットに付けられました。
(シェルサイズ64cmには57cmのライナーが付けられることもあり)

 M35 EF64 #3521 L
頭頂部内側のクローズアップ。この写真で見ると確かにフィールドグレイです。
薄っすらとですが、ドームスタンプが残っています。ローマ数字の「Ⅰ」と「193?」が辛うじて読めます。
このスタンプは品質検査に合格したというという証で、国防省(Reichskriegsministerium)から派遣された検査員によって押されました。
なおロットから抜取り検査なので、全てのヘルメットに押されているわけではありません。


      M35x.jpg


こちらがドームスタンプ(陸・海軍用)です。ローマ数字は検査員によって変わり、年号は製造年となります。

M35j.jpg
チンストラップ取り付け金具のクローズアップ。角ばった形状の金具はアルミ製で1940年には鉄製に変更されます。

M35i.jpg
チンストラップの先端には「R.LARSEN BERLIN 1938」の刻印があります。

さて、ここからはヘルメットコレクターのMさんに伝授いただいたヘルメットのメンテナンス方法を公開したいと思います。
(間違って書いてしまうとまずいので、いただいたメールの文章をそのまま転載します)

(転載ここから)
シェルの防錆対策については、ドイツのヘルメットは材質が良いのでそのまま何もしないで良いと思います。
湿気がなければ錆は拡がりません。(30年の経験から言います。)
むしろ、防錆のためにとオイルを塗るのはよくありません。
鉱物質のオイルは塗装を明らかにダメにします。鉱物油を長年つけたままにしますと、塗料の密着度が悪くなり、最悪の場合、こすっただけでベロリとはがれてしまいます。
ドイツヘルメットの焼付塗装は品質が高いので、そんなことにはならないと思いますが、一般的に、鉱物質のオイルは塗膜を溶融させる性質があるので絶対に使ってはいけません。
あと、シェル内側の頭頂部にオリジナルの艶消しの塗装が残っている場合、それはとても大切ですから何も塗ってはいけません。

錆の対策で何よりも大切なのは、湿気です。(中略)湿気にさえ気をつければ錆の心配はいらないと思います。

シェルに塗布してもOKなものがあります。
80年代に出版され今でも評価の高い著作「GERMAN HELMETS 1933-1945 VOL.2」 の中で著者のGood Apple氏が勧めている「白色ワセリン」です。
(製品名ではありません。日本薬局方のワセリンです。薬局・ドラックストアで安く買えます。)


waserin1.jpg  

ワセリンをごく薄く塗ってウエスでべた付きがなくなるまで拭き取るだけでOKです。
塗 装の微細な傷を目立たなくしますし、塗膜が古くなって白化(チョーキング:塗膜が劣化して粉を吹いたように白くなってしまうこと)したペイントの本来の色 を取り戻してくれます。また、全体的な光沢も均質にしてくれますので、見栄えがグッとよくなります。ワセリンが最も害がなく、安価でお勧めです。

もう一点、私が長年使用しているのは製品名「革の達人」という保革油です。(ネットで検索すればいくらでも出てきます。)
ワセリンに密ロウ、ホホバ油が添加されているようです。良くあるシリコン系のテカッとしたぎらつきになることなく、自然な半光沢に仕上がります。
私はかれこれ10年程、使っていますが、トラブルは全くありません。
ワセリン・革の達人共に、使用は最小限度に。べた付きが残るようでは付け過ぎです。
(転載ここまで)

ちなみに「ラナパー」は革の達人の成分と同じようです。(値段は革の達人の方が安い)

Ranapur.jpg
なおラナパーも革の達人も基本は保革油。Mさんに革のライナーには使用できないか質問してみました。
この問いに対してもMさんから親切丁寧な回答が得られましたので転載させていただきます。

(転載ここから)
ラナパーはこれまでのユーザーの評価や実績からしても信頼性があり、革のライナーにも使用出来そうですが、光沢成分が入っているので要注意です。オリジナルのライナーに使用されているシープ/ゴートスキンには、本来そのような光沢は無いからです。
ホームセンターで普通に入手出来る保革油、たとえばミンクオイルとかは使用厳禁です。絶対にデリケートなシープ/ゴートスキンに使用しては いけません。そもそもそれらの品は、実用本位の現代の革製品に使用するためにあるもので、長年を経過し、これから100年先も生きながらえるアンティーク皮革のためにはつくられていないからです。基剤となる油脂成分は不明ですし、シリコンや芳香剤、皮革軟化剤、研磨剤等、どんな添加剤が含まれているかもわかりませんから、怖くて使えません。

私がお勧めなのは、ワセリンです。これは前著でGoodapple氏が勧めています。ワセリンは軟膏の基剤としても使われているくらいですから、革に与えるダメージは少ないと言えるでしょう。勿論、不自然な光沢が出ることもありません。

もうひとつ、私が使用し、経過を観察していて良好なものがあります。製品名はLEDERBALSEM。オランダ製の羊毛油です。シープスキンに羊毛油。気分的にもマッチングしますね。この製品の優れているところは、シリコンや香料などの余計な添加物が入っていないところです。乳化状になっているので、塗リやすく、軽く指で伸ばすだけでひろがります。劣化したライナー皮革は大変デリケートで、指で強くこすっただけで、はがれてしまうこともあるので、この塗りやすさは重要です。

15363_1.jpg
ワセリンもLEDERBALSEMも、使用することによって、乾いてガサガサになっていた皮革が「生き返る」のが実感できます。(良くしようと思って、塗り過ぎてはいけません。ごく少量が基本です。念のため。)

確かに保革油によりライナー皮革の状態は良くなりますが、良いことばかりではありません。オリジナルのライナー 皮革は、その多くが出荷時はタン色です。使用で痛むと茶色く変色してゆきます。製造後70年あまりを経たライナー皮革は当然痛んでいますから、保革油を塗ると、過去にカビが発生したところは黒ずんでシミがあらわれてしまいます。全体的にも色が濃くなってコンデション・グレードが下がります。(本来のタン色が残っているほうがコンデションが良いと判断されます。)

また、私は経験がないのですが、保革油は塗り過ぎるとカビが生えやすくなったり、その時は保革油を入れて良くなったように見えても、長年の経過で逆に皮革自体を劣化させることがあるとも聞いています。 ドイツ軍装備品の多くで使われている堅牢な牛革と違って、ヘルメットのライナー皮革はその扱いがとってもデリケートです。 手入れの誤りで貴重な歴史的遺品をダメにしてしまいかねません。ですから、実は何もせずにそのままカビが生えないよう注意して保管するのが最良の選択なのかも知れません。
(転載ここまで)

さっそくMさんのアドバイスにしたがい、シェルにラナパーを塗ってみました。慎重にごく少量のラナパーを一番ダメージの大きい頭頂部から広げるように塗っていき最後にウエスでふき取るとしっとりとした半光沢が出ていい感じになりました。

M35z1.jpg

最後になってしまいましたが長年の経験で会得されたノウハウを惜しみも無く教えていただき、ブログを通じて公開することを快諾いただいたMさんに感謝の意を表したいと思います。今後も宜しくお願いします。

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