Yサスペンダー (Koppeltraggestell fuer Infanterie) Part1

歩兵用サスペンダー(Koppeltraggestell fuer Infanterie)は、主に革製でAフレームが取り付けられるDリングと小銃用弾盒が引っ掛けられるフックが先端に付いており、1939年に採用、まずは歩兵(小銃兵)向けに支給されました。


ysus1.jpg ysus2.jpg
見たとおりY字型なのでYストラップ、YベルトまたはYサスペンダーと呼ばれております。(以下“Yサス”と記述します)

ystrap12.jpg  
BERNHARD MEYER CRONAU(HANN) 1940の刻印があります。

20090115_001.jpg
小銃用弾盒のDリングにフックを引っかけているところが良く判ります。ブラブラしているストラップはAフレームのフックに繋げることができます。

では、それ以前はどうやって個人装備を運んでいたか?第一次大戦当時の兵士の写真を見てみましょう。

3791893950_df60898af2.jpg
兵士が装着しているのはYサスのように見えますね。しかしこれはYサスではなく、リュックサックのストラップと思われます。

tonister.jpg
上記は1934年に採用されたM34背嚢(Tornister 34)ですが、第一次大戦中もほぼ同じ形のものが使われており、Yサスが支給されるまで個人装備を運搬するアイテムでした。
ではリュックからYサスに移行した理由とは何か?
恐らくブーツを短くしたのと同じく、材料の節約および製作工数の削減ではないかと思われます。
このリュック、シンプルに見えて1個作るのに結構な作業工程で、おまけに防水目的で天蓋に使われているのはポニーの毛皮です。それを兵士一人ずつに支給していたら勝てる戦争も勝てなくなります。
あるいは戦線の拡大や兵器の近代化に伴い個人装備の重量も増し、ベルトフック+内蔵サスペンダーだけでは支えきれなくなってきたのも理由の一つかも知れません。

suspender4.jpg
ベルトフックと内蔵サスペンダー(Tragegurte)はYサス採用後も、継続して使用されました。


akp3.jpg
40年のフランス侵攻時の写真でしょうか?Yサスをしている兵士はいませんね。

多くの軍装備品と同じく、Yサスも全ての兵士に行き渡るにはだいぶ時間がかかったと言われており、写真を見ても42~43年の中期になっても100%の普及率とは言い難いです。
むしろ42年頃をピークに装着率自体は徐々に減ってきているように見受けられます。

この装着率の減少は43年を境に侵攻から防衛戦もしくは撤退戦に転じたことが大いに関係しているのではないかと考えます。
侵攻、すなわち敵地に攻め込む場合は補給も不確実な為、個人が持てるだけのモノを運搬する=重装備化となりますが、撤退戦の場合は自軍の勢力圏にいる分補給の心配は減少し、速やかに退却できるよう装備の軽量化を図るのは当然の成り行きと言えます。

UBiB_200_1#
激戦地スターリングラードでYサスにAフレームを装着、完全重装備の兵士(重そう・・・)

私の勝手な妄想ですが、Yサスというのは便利なようで意外と兵士からは好ましく思われてなかったのかも知れません。
ザックを背負って長時間歩行する中で一番きついのは、ショルダーベルトの肩への食い込みなんですね。
ウエストベルトで荷重分散しないと肩が痛い上にすぐにバテてしまいます。
現代の幅広いソフトタッチなショルダーベルトでさえ辛いのですから、硬い革のYサスなんて想像しただけでゾっとします。

y.jpg
コートの上にこの程度の装備だったら軟弱な私でも平気です。

さてそんなYサスですが、実物の残存率は結構高く150~200ドルで取引されております。
上質な牛の革で作られているので、70年近く経っても十分実用に耐え得る状態のモノが比較的簡単に手に入ります。
ちなみにこの価格はあくまで革製の話で、ウェブ(コットン)製のサスペンダーはその倍以上の値段がするので・・・


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Yサスペンダー (Koppeltraggestell fuer Infanterie) Part2

前回に続き、Yサスについて。
下の写真は、ドイツ軍歩兵用サスペンダー(独:Koppeltraggestell fuer Infanterie)のR.B. Nr付きの後期型です。

ysus3.jpg ysus4.jpg              
前回のYサスペンダーの記事では細部にはあまり触れなかったので、初期型と比較しながら見ていきたいと思います。

P1019517.jpg  

以下の写真の下は1940年製の初期型、上はRBナンバーが刻印された後期型となります。

ystrap3.jpg
Dリングや中央の丸いリングとフロントストラップをつなぐ補強革の色に注目ください。初期型は黒く染められていますが、
後期型の補強革はオリジナルの茶色のままです。染色の有無は当時の写真でもはっきり区別がつきます。
またDリングの位置が違います。複数の初期型と後期型を比べてはいないので、全てに共通する特徴かは断定できません。

ystrap11.jpg
リベットの横の縫い糸が後期型(右)は見えるようになっています。
初期型(左)は、革が二重構造になっており縫い糸が表に出ないようになっています。

ystrap6.jpg
ベルトに付ける装備品を引っ掛けるフック金具の形状が違います。
初期型(左)はフック金具が別パーツとなっており前後可動になっていますが、後期型(右)のは一体型です。

ちなみに初期型のベルト穴には1~8までの数字が打たれていますが、後期型は省略されています。

ystrap7.jpg
初期型(左)と後期型(右)の補助ストラップのAフレームの金具に引っ掛ける為の金具の形状が違います。
また補助ストラップの長さを調整する穴の形状や機構も異なります。

ysus1.jpg ysus3.jpg

背面ストラップに初期型は豚革を使用しています。背面ストラップの材質が違う理由は定かではありません。
こうやって並べて比較すると、明らかに初期型の方が良質の革を使用しており、縫製も丁寧です。
かといって後期型が決して使い難いわけではなく、機能を保ったままシンプルに作られています。

フック金具やDリングの使い方については、また別の機会に紹介したいと思います。


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Yサスペンダー (Koppeltraggestell fuer Infanterie) Part3

コットン製の歩兵用サスペンダー(Koppeltraggestell fuer Infanterie)をアップします。
歩兵用サスペンダー、通称Yサスペンダー(Yサス)の導入経緯と役割については革製Yサスペンダーで説明したので割愛します。

YstrapA3.jpg
コットン製Yサスはコレクターの間で、トロピカルYサスペンダー、又はDAK(ドイツアフリカ軍団)ストラップとも呼ばれており、革製Yサスよりも入手が困難でコレクター市場では400ユーロ以上で取引されています。サスペンダーにそんな大金は無理・・・という気持ちも手伝ってなかなか手が出せないアイテムでした。
今回紹介するのは難あり品の為、相場よりも安価で入手できたのですが、それでも馬鹿にならない値段でしたotz (どこが難ありなのかは後ほど説明します)
   DAK4.jpg     Webystrap2_20120312013005.jpg  
タミヤ「ドイツ・アフリカ軍団歩兵セット」のパッケージと熱帯仕様の軍装

装備がコットン製で作られるようになった理由は気候に関係します。
ご存知の通り、サハラ砂漠で有名な北アフリカは、地中海沿岸部の一部を除き降水量が少なく日差しが強烈な砂漠気候です。

northafricamap2.jpg

africasat.jpg
1941年の北アフリカ戦線とサハラ砂漠の衛星写真(Wikipediaより)

DAK.jpg
砂漠を進むドイツ軍オートバイ兵

このような高温・乾燥した砂漠気候では少しでもメンテナンスを怠ると革はすぐにヒビ割れ、ボロボロなってしまいます。装備の管理にはうるさいドイツ軍もそこまでの労力を兵士に負わせるのは宜しく無いと考えたのか、地中海の熱帯地域向けに開発されたコットン製(キャンバス)の装備をアフリカに派遣する兵士にも支給します。このYサス以外にも銃剣やスコップのホルダー、ウエストベルト、装備ストラップなどもコットン製で作られたものが多く存在しています。



YstrapA1.jpg YstrapA2.jpg
コットンで作られている以外は基本的に革製Yサスペンダーと構造は同じです。残念ながらYサスのバックストラップは純正ではなく別のもの(リュックのストラップ?)に変更、Aフレームを取り付けるストラップのベルト部分も紛失してしまっています。
バックストラップのみが革製になっているハイブリッド型もよく見かけますが、最初からその組み合わせなのか、破損のちに革製に交換されたのかは不明です。

YstrapA8_20120312101313.jpg  
中央のOリングの裏当て部分は革製ですが、極初期のタイプはコットン製です。

DAK9.jpg  
今回の記事を書くに当たり、北アフリカ戦線の写真を調べていて、他の戦線に比べるとYサスを装着している兵士の写真が極端に少ないことに気がつきました。Yサスの支給率は低かったのでしょうか?

砂漠が戦場であったことが大いに関係しているのではないかと思い、砂漠戦について調べてみました。

北アフリカ戦線 (欧州戦史シリーズ (Vol.5))北アフリカ戦線 (欧州戦史シリーズ (Vol.5))
(1998/05)
不明

商品詳細を見る

手持ちの「北アフリカ戦線」(学習研究社)には「北アフリカの砂漠という地形は(中略)機械化部隊による機動戦に適し、その原則を完全に適用できる第二次大戦で唯一の戦場であった。特にドイツ・アフリカ軍団は、エルヴィーン・ロンメル将軍という装甲機動戦を得意とする稀に見る名将を指揮官としていたために、砂漠における機動戦の優位性を存分に発揮した」とあります。

DAK5.jpg
機械化した部隊では歩兵は装甲車や兵員輸送トラックで移動し、装備も輜重部隊が運搬したと考えられます。Yサスは別名、重装サスペンダーとも呼ばれ歩兵が単独で個人のテントやツェルトバーンなどの装備一式を携帯できるように開発されたものですが、アフリカ戦線のドイツ軍兵士は輜重部隊の存在によってYサスで重装備をする必要が無かったのでしょう。(そのことがYサスの希少性に関連しているのかどうかは不明です)

DAK8.jpg
軽装すぎる?

北アフリカ戦線以降もコットン製の装備は革の節約の目的で継続して生産されます。全ての戦域においてコットン製Yサスを着けた兵士の姿を当時の写真に見ることができます。

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脳内の99%をドイツ軍が占めている、そんなアラフィフ親父です。
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