クレタ従軍カフタイトル (KRETA Ärmelband)

現在、欧州の経済危機が深刻化しています。そもそもの発端となったのがギリシャの財政赤字。ギリシャは年間のセックス回数が164回でぶっちぎり世界一というすごい国ですが、どんぶり勘定の国家経営のツケがまわってデフォルト(債務不履行)に陥りかけました。なおセックスうんぬん以外は管理人と共通しているので妙に親近感のある国です。一方で欧州の勝ち組といわれるドイツ、この対照的な2つの国には第二次世界大戦で戦った過去があります。

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1940年10月28日「ローマ帝国の復活」を夢想するイタリア・ムッソリーニは7個師団10万の兵でギリシャに攻め込みます。
ギリシャ軍を過小評価したイタリア軍は装備も経験も不足した状態で戦闘を行い、当然のごとく防衛軍に撃退され、逆に当時併合していたアルバニアの一部を占領されてしまいます。

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困ったムッソリーニはドイツに支援を要請、ヒトラーは「マリタ作戦」を発令、1941年4月6日にギリシャへの侵攻を開始します。(この流れは北アフリカと同じパターンですね)イギリスの支援の下、ギリシャ軍も奮闘しますが、猛攻するドイツ軍に敗退を続け、同月27日にアテネが陥落。30日にはイギリス、ギリシャの敗残兵57,000人が最後の砦クレタ島へ逃げ込みます。


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クレタ島はギリシャ本土から160km南に離れた地中海東部に位置し、東西260km、南北60km(狭いところで12km)という細長い形をしており、全体的に山岳地形です。
クレタ島は古代ミノア文明が栄えた場所で、ギリシャ神話に出てくる怪物ミノタウロスの伝説が有名です。

そしてこの島で1941年5月20日から6月1日の12日間、イギリスを中心とする連合軍とドイツ軍との間で戦闘が行われます。

この戦闘はギリシャ本土から撤退したイギリス軍の追撃という目的のほかに、イギリス地中海艦隊の重要な港であり、枢軸国側のルーマニアの油田地帯を脅かす存在である航空基地の攻撃という意味合いがありました。さらに独ソ戦を開始するにあたり、東地中海の安全確保はどうしても必要でした。

ドイツ軍はこの作戦を「メルクール」(独:Unternehmen Merkur,ギリシャ神話の商業・盗賊の神メルクリウスに由来)と名づけ、爆撃機280機、急降下爆撃機150機、戦闘機180機、輸送機500機、グライダー80機そして降下猟兵と山岳猟兵合わせて29,000人を投入します。(Wikipediaより)

当時地中海の制海権はイギリス軍が握っていた一方で制空権はドイツ軍側にあった為、パラシュートとグライダーで降下猟兵が敵の基地付近に降下し、素早く制圧するという作戦でした。

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20日の早朝、クルト・シュトゥデント大将指揮する第1降下猟兵師団の降下猟兵がユンカースJu52からのパラシュート降下を開始します。第一波はマレメとチャニア、第二波はレティムノンとイラクリオンの飛行場制圧が目標です。
しかし事前の猛烈な空爆でほとんどの対空兵器を破壊したにも関わらず、守備隊(降下作戦を想定した訓練を受けていた)の攻撃は熾烈極まりなく、パラシュートでの降下途中や、着地後ハーネスを外す間の無防備な時に攻撃を受け命を落とす兵士が続出。たとえ無事にパラシュートを外し体の自由が得られても多くの兵は猛砲火の中で、重火器コンテナーに近づくことができず、手持ちの拳銃、小銃もしくは手榴弾での応戦がやっとでした。
またグライダーでの降下もほとんどが着陸直後に迫撃砲弾の攻撃を受け多くの死傷者を出しました。

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膨大な数の犠牲者を出し、完全な失敗に見えた降下作戦も、一降下猟兵の部隊がマレメ飛行場が見下ろせる107高地を確保したことで風向きはドイツ軍の方に変わります。

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107高地確保の知らせを受けたシュトゥデント大将は、翌21日の攻撃目標をマレメ飛行場一本に絞ります。第5山岳猟兵師団の兵士を乗せたユンカース Ju52が飛行場近くの海岸に胴体着陸したのを機に、その後も激しい砲火の中、第100山岳猟兵連隊を乗せた輸送機が続々とマレメ飛行場に着陸を試みます。滑走路は射撃場の的のような状態でしたが、勇敢にも山岳猟兵は穴だらけの機体から飛び出して反撃、徐々に連合軍を圧倒していき、22日の午後4時には飛行場の完全制圧に成功します。

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その後、制空権を持つドイツ軍はイギリス地中海艦隊に急降下爆撃などの攻撃を加え、絶望的とみた連合軍は次々に島から撤退。そして侵攻から11日後の6月1日、クレタ政府は降伏しクレタ島侵攻作戦はドイツ軍の勝利で幕を閉じます。

最後は強引に締めましたが、詳しい戦歴はこちらをご覧いただくとして、そろそろ本題に入りましょう。ちなみに上記の長い前置きはこれまでとは違い、今回のアイテムを語る上で必要不可欠なものなのでご容赦ください。

さて本日のネタはクレタ従軍カフタイトル(KRETA Ärmelband)です。クレタ島の戦いに参加した兵士に与えられました。

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クレタ従軍カフタイトルはクレタ島侵攻作戦に参加した兵士の奮戦を称える目的で1942年10月16日に導入されました。
幅3cmのベージュのコットン生地に金糸で「KRETA」の文字とアカンサス葉の模様が刺繍されています。(アカンサス葉はギリシャ遺跡のコリント式柱頭などのデザインに使われています)

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授章資格は以下の通りとなっています。

・1941年5月20日から27日の間、クレタ島侵攻作戦「メルクール」にパラシュートもしくはグライダーで降下した者
・同作戦で航空作戦に参加した者
・クレタ島周辺において1941年5月28日までの海上作戦に参加した者(5月22日にボートで輸送された兵士も含まれる)


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このカフタイトル、写真のようにエーデルヴァイス部隊章のある野戦服に縫い付けられています。そして、胸ポケットには山岳猟兵Soldbuchが入っていました。(もちろん、当時からずっと入っていたわけではありません)カフタイトルが野戦服に縫い付けられた時期が戦中か戦後かは判りませんが、実物のようです。

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名前はRichter  Friedrich、階級はObergefreiter(41年5月)、所属は第100山岳猟兵連隊第3大隊第16中隊となっています。
 
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2ページと3ページ目です。鉛筆の文字が見えづらくなっていますが、上級伍長は1916年4月24日生まれのようです。クレタ島侵攻時には25歳ですね。Soldbuchは野戦服の胸ポケットに入れ常に所持することが義務付けられていました。このSoldbuchも所有者の胸ポケットに入れられ幾多の戦闘を潜り抜けてきたのでしょう、補修だらけで今にも破れそうです。

前回紹介したアフリカ従軍カフタイトルもそうですが、このような章記を授章していればSoldbuchに記録があるはずで、入手後真っ先にチェックしました。下記が授章歴を記録するページです。

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東部戦線従軍記章(42年9月1日)、歩兵突撃章(42年9月18日)、二級鉄十字章(42年12月6日)、一級鉄十字章(43年7月30日)の授章記録はあるのですが、クレタ従軍カフタイトルの記録がありません。記述が無ければ授章していないことになります。

上級伍長が第100山岳猟兵連隊に所属していたのは間違いなく、授章していないとすると作戦時に怪我や病気、もしくは休暇で戦線を離脱していた可能性が考えれます。ということで入院履歴のページをチェックしました。

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やはり、1941年5月23日から6月3日まで陸軍野戦病院(Armee-Feldlazarett )で入院していたようです。病院のナンバー(612)からギリシャのテッサロニキにあった野戦病院であることが判明。なお病名(Krankheit)は戦闘による負傷ではなく扁桃腺炎。

師団記録を調べると、第16中隊は輸送機ではなく、海上から上陸する部隊に編成されたようです。想定の範囲ですが、21日の深夜にイギリス海軍によって攻撃・撃沈された輸送船団に乗っていた可能性があります。

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Friedrich上級伍長は退院した後、東部戦線に送られ授章歴の通り一級鉄十字章に値する活躍をします。転属記録が無いことから第100山岳猟兵連隊の一員として有名なモンテカッシーノの戦いにも参加したことはほぼ間違いないでしょう。(Wehrpassがあれば確認できるのですが)
そして奇跡的に生きて終戦を迎えます。クレタ従軍カフタイトルは得られなかったのかも知れませんが、生きて家族の元に戻ったことは、どんな勲章よりも素晴らしいことだと私は思います。

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