ピッケル(Eispickel)

皆様、GWはいかがお過ごしでしょうか? 私は現在、スイスの海辺のリゾート地でバカンス中です。現地の人にドイツ語で話しかけられると理解できるのですが、スイス語だと私でもちょっと理解できません。

・・・なんて、ネタはここまでにして、本日は山岳猟兵(Gebirgsjäger)が使用したピッケル(Eispickel)を紹介します。

2044082_orig.jpg  
ピッケルは、積雪期の登山に使うつるはしのような形の道具。語源はドイツ語のアイスピッケル(Eispickel )。アイスアックス(英語:Ice axe )、ピオレ(フランス語:Piolet )とも呼ばれる。(中略)
かつて近世-戦前程度には杖としての使用局面が多かったらしく100 cm程度あったが、現在はストックを別に用意することも多く、シビアな局面だけで利用されることが増えたため短めのデザインとなっている。
-「Wikipedia」より-
 こちらは私が1本だけ所有するピッケルです。詳細を見ていきましょう。

icepick_12.jpg icepick_11.jpg      
まず各部の名称ですが、柄の部分をシャフト、柄の上端に付いている鉄製の頭部をヘッド、ヘッドの両側に付いた刃のうち細く尖った方の刃をピック、広がった方の刃をブレード、柄の下端に付いた尖った部分をシュピッツェ(石突き)といいます。こちらのピッケルは全長79cm、シャフトの長さは62cm、ヘッドは27.9cm、重さは約1.3kgです。
icepick_5.jpg
ヘッドのクローズアップ。ピック部分には歯が15個付いており、氷や雪に突き刺した後にギザギザで引っ掛かるようになっています。

icepick_7-2.jpg
上から見たところ。見た目はまんまつるはしです。
icepick_9-2.jpg  
刻印のクローズアップ。「STUBAI」はメーカー名で、同社の社史によれば、オーストリアの西部チロル地方あるスチュバイ谷(STUBAI  TAL)のフルプメス村の鍛冶職人たちにより1897年に設立された会社のようです。60年代に社名をSTUBAI  BERGSPORTに変更し現在も存在しています。なお社名を囲っている菱形は戦後、3つの頂きを持つ山の形に変更されます。

スチュバイ谷のフルプメス村
neustift1_03.jpg
ちなみに村の名前「FULPMES」が刻印されたピッケルも有名で、STUBAIと同じく戦前から戦中にかけて製造され山岳猟兵に使用されました。

「ASCHENBRENNER」は戦前・戦後に活躍した“ヒマラヤ・ペーター”こと、オーストリアの登山家ペーター・アッシェンブレンナー(1902-1998)の名前です。(アッシェンブレンナーは、大戦中は山岳猟兵、陸軍山岳ガイド:Heeresbergführerでもあった)
なおこちらによれば、1930年代初めにアッシェンブレンナーはSTUBAI社と協同で開発したとしています。
アッシェンブレンナーの名を冠したピッケルはまたたく間にヒットし、大量にコピー品が出回ったために本物の証である「ORIGINAL」「GES.GESCH.」(登録商標)の刻印が上下に打たれています。
icepick_6.jpg

このピッケルは、反対側にも刻印があります。
icepick_10.jpg 
第100山岳猟兵連隊第3中隊の刻印。なお第100連隊については過去にこちらで記事にしています。
このような刻印はヘッドやシャフトに時々見られます。(中には胡散臭いものもありますが・・・)

icepick_19.jpg   icepick_20.jpg
こちらは第99山岳猟兵連隊第1中隊の刻印が入ったSTUBAI社のアッシェンブレンナーピッケル。「FÜHRERPICKEL」(案内人のピッケル)の刻印があります。(画像をクリックすると拡大します)

後述しますがピッケルは特殊な用途の装備である為、他の官給品のように個々の兵士に支給せず、部隊で保有し必要な兵士にのみ貸与したのでは無いかと考えます。


icepick_17.jpg
このピッケルのブレードはフラット・ブレードと呼ばれるタイプで、他にもコンケーブ・ブレードという先端が凹型のタイプもあります。

icepick_14.jpg
ピッケルバンドは鉄製リング留めで、脱落しないようストッパーがネジ止めされています。なおバンドの色がフィールドグレイは軍用、写真のようなストライプは民間用と言われていますが、Esbit懐中電灯のように民間用だったものが軍用として使用された装備品の場合、官民の区別は無かったと思われます。

icepick_16.jpg
シュピッツェの長さは7cm。鋭く尖っており武器としても通用しそうです。

次はピッケルの用途について。
その用途は幅広く、氷雪の斜面で足がかりを作るのに用いるほか、確保の支点(ビレイピン)、滑落時の滑落停止、グリセード時の制動及び姿勢の維持、アイスクライミング時の手掛かり、杖代わり、時には雪上でテントのペグとして使ったりもする。
-「Wikipedia」より-
と色々あるようですが、まとめると下記の三つのようです。

 1.硬軟緩急不安定な雪面で歩行の際のバランス保持の役割
 2.急な斜面での上り下りのホールド(手がかり)の役割
 3.転倒時のアンカーブレーキの役割


では実際の使い方を写真で見ていきましょう。(写真はこちらのサイトからお借りしています)

1.硬軟緩急不安定な雪面で歩行の際のバランス保持の役割

雪面にシュピッツェを突きさしてバランスを取ります。

■ 登攀時に支点として使用(ケーン・ポジション)
fig10-2.gif 

■ トラバース(横断)時に支点として使用(クロスボディ・ポジション)
fig10-3.gif 

■ 下降時に支点として使用
fig10-11.gif fig10-10.gif 


2.急な斜面での上り下りのホールド(手がかり)の役割

堅雪ではピックを突き刺して支点にします。

■ アンカー・ポジション
fig10-4.gif 

■ プッシュ・ホールド
fig10-6.gif 

■ ダガー・ポジション
fig10-7.gif 

■ ハンマー・ポジション
fig10-8.gif

3.転倒時のアンカーブレーキの役割
斜面を滑落した場合に、ピッケルのピックを使って止める技術です。

fig10-14.gif fig10-14b.gif

最後に、FULPMESとSTUBAIの関係について調べていたところ、あるフォーラムで下記のような記述を見つけました。
(大戦中のピッケルのメーカーはどこか?という問い合わせについての回答の全文)
I am not an expert on the matter, but know a bit about these. The most common are Werk Fulpmes which was the cooperative name for the many small blacksmiths in the Stubai valley of Austria that made them. They were all too small to be awarded a contract and so started the co-op to get the Wehrmacht contract. They stamped their Eispickel with WERKGEN FULPMES in an oval and their Steigeisen with FULPMES GENOSSENSCHAFT in a circle. That co-op eventually became the Stubai Werkzeugindustrie which still exists today. Their logo was "STUBAI" in a diamond. Then there was "F. RALLINGS SCHMIEDEWERKE FULPMES", "FRANZ SEEN FULPMES", and "A. HORESCHOWSKY Wien". Those are the ones I know of. Items made in the Stubai valley were waffenamt'd WaA108.
My information comes from Hermann Falschlunger who worked for Stubai Werkzeugindustrie his entire life and who's father worked there during 2WK. I met Herr Falschlunger at many Chicago National Restaurant Assoc. shows (Stubai makes chef's knives as well) and he was amazed that someone cared to understand what his company manufactured so long ago. We had quite a few long talks and he is a most pleasant and helpful man.

<直訳>
私はこれ(登山道具)についての専門家では無いが、問い合わせの内容について少しだけ知っているよ。一般的なのはオーストリアのStubai谷の小さい鍛冶職人の共同組合であるFulpmes Werk(Werk=工房)だね。彼らは国防軍と契約するには小規模だった為、会社化したんだ。(中略)その会社は最終的にStubai社となり現在も存続しているよ。(中略)この情報はStubai社に永年勤続したHermann Falschlunger氏から得たもので、彼の父親も第二次大戦中に同社に勤めていたようだ。(中略)Falschlunger氏はStubai社がずっと前に製造していたものについて誰かが熱心に知ろうとしていることにとても驚いていたよ。

フルプメス村は14世紀から鋳鉄産業が盛んで鍛冶職人が複数存在しており、それらが共同組合(FULPMES GENOSSENSCHAFT)を結成、やがて時代の流れに応じ会社化したようです。ここからは推測ですが、STUBAIはFULPMES社の商品名の一つでアッシェンブレンナーモデルは最初は「FULPMES」、やがて「STUBAI」のロゴを付けて販売され大ヒット、戦争が終わり(国防軍に協力したイメージを払拭する意味でも)知名度の高い商品名を社名にしたというのはいかがでしょうか?同じような例は世界中にたくさんあり、日本でも、ニコン(日本光学)、キッコーマン(野田醤油組合)、マツダ(東洋工業)、最近ではスバル(富士重工)など枚挙にいとまがありません。

最初はオーストリア(ドイツ)を代表する2社が競合、最終的にSTUBAI社がFULPMES社を買収したと思っていましたが、STUBAI関係者の話と、14世紀から変わらないフルプメス村の牧歌的な風景を見てそう思った次第です。

1930年頃のフルプメス村
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