M31水筒 (Feldflasche 31) Part2

フランス, ブルターニュ半島 ブレスト -1943年1月

ハインツ・クルレ兵長は憂鬱な気持ちから抜け出すことができなかった。
かつての敵国ながら第2の故郷とまで思えてきたこの町を離れることも辛いが、よりにもよって次の任地がロシアとは。
スターリングラードで第6軍が包囲されたというニュースは瞬く間にドイツ全土に広まり、4000キロ以上離れたこのブルターニュ半島にも伝わってきた。ドイツ軍が瀕死の赤軍に負けるなど到底信じられないが、3日後に出発が迫っているのは現実として受け止めなければならない。

ブレストはフランス最西端に位置する軍港でUボート・ブンカー(基地)があり、彼の所属する第683擲弾兵連隊第2大隊は基地の守備隊として1年前から駐留していた。町は戦時中とは思えないほど平和で、非番に酒場に繰り出した兵隊どうしの喧嘩(原因の多くは女であるが)や気まぐれのように行われるレジスタンスの妨害工作(といっても電話線を切る程度)以外にさしたる厄介事もなく、誰もがこの海辺の町で終戦を迎えると信じて疑わなかった。


photo2.jpg

まして東部戦線から一番離れた場所にいる自分たちがロシアに行くなど、ゲーリングが減量して戦闘機パイロットとして戦線に復帰する以上にあり得ない話だと思っていた。
いい気になっているロシアの農民どもを誰かが懲らしめてやるべきだが、まさか自分たちが行くことになるとは想像さえしなかった。

map.jpg

戦地に赴く兵士への餞別のつもりだろうか?小銃、衣服以外はすべて新調され、中綿入りの冬季用迷彩服も支給された。クルレは新品の水筒を手にとってみた。これまで使っていたものと形は同じだが、カップの色が黒から深い緑色に変わっている。
北アフリカ行きの兵士にカモフラージュの目的でダークイエローに塗装された装備を支給されるのは理解できるが、この色に何か意味があるのだろうか?クルレはしばし考えを巡らせたが、自分を待ち受ける運命と比べると取るに足らないことに気がつきそれ以上考えるのは止めた。


今回は出だし部分を戦傷章で紹介したHainz kurrle兵長の軍歴と写真をモチーフに物語風にしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
さて、クルレ兵長が出発前に支給されたのがこちらのM31水筒です。

 ct1.jpg     ct2.jpg
     
フェルトカバー付きのアルミ製水筒で0.8リットルの容量です。アルミ製カップはオリーブグリーンの塗装がされています。

CT3.jpg
カップは革ストラップで本体に固定されています。カップと本体は同一のメーカーで作られ、それぞれ同じメーカーコードと製造年が刻印されました。

canteen6.jpg  

カップに「H.R.E 42」の刻印があります。Heinrich Ritter, Esslingen社1942年製を表します


  CT4.jpg        ct1.jpg

左の水筒は以前紹介したCFL製のものでカップは黒色に塗装されていますが製造年は左右とも同じ42年製です。
もともとカップは左のようにつや消し黒で塗装されていましたが、戦況の変化に応じ迷彩効果を高める目的でオリーブグリーンに変更となりました。
なお、フェルトの色や革ストラップにも若干の違いがありますが、これは製造工場の違いによるものと思われます。

下記は飯盒と水筒のカップの色の変更を指示した1941年4月23日付けの命令書です。 (HM No. 435, 1941)
命令書及び英語の翻訳文は、このブログのリンクにもあるオランダ在住のコレクターTom氏のサイトから許可を得て転載しました。
Tom-san, Thank you very much!

hm41_435_farbe_trinkbecher.jpg

435.
Color of the painting of Mess Tins and Drinking Cup
            第435号 飯盒及び水筒カップの色変更について

Mess Tins and Drinking cups made out of leight weight metal
are to be painted in a olive green color.
軽金属(アルミ)の飯盒及び水筒カップはオリーブグリーンで塗装されたし。

To ensure that appropriate colors are used for this purpose,
the troops have to report their need of paint for renewal of the
painting coat at the prescribed requirement route.

本目的に正しい色が確実に使用されるべく各部隊にて換装に必要な塗料の
申請を前述の要請ルートにて請求すべし。


The supply to the Army clothing offices of the needed paint is
arranged by the Army Procurement Agency.
陸軍被服部門への必要な塗料の支給は陸軍調達本部にて準備する。

Sealed color samples are deliverd to the Army clothing offices,
the Army procurement Agency and to the AHA/Bkl
色見本は陸軍被服部門、陸軍調達本部びAHA/Bkiへ配給する。

AHA=Allgemeines Heeresamt(陸軍総務局)
Bkl=Heeresbekleidungsabteilung(陸軍被服部門)


参考までにドイツ軍で使用されていた省略文字の一覧はこちら

このような命令が出された後もCFL刻印の水筒のように黒いカップは製造され続けたようです。Tom氏のサイトでは43年刻印の黒カップが紹介されています。

hangou281.jpg

なお上記の飯盒は1937年製ですが、オリーブ・グリーンで塗装されています。もともとは黒色だったのが、命令書に従い一度回収され塗り直された可能性があります。

― と上記には書きましたが、やはりオリジナルの塗装のようです。
下記2枚はいずれも1941年以前の写真ですが、当時としては珍しいカラーで撮影されており飯盒の色を見ると必ずしも黒ではないことが分かります。

life_262.jpg  aky.jpg

冒頭で書いたように全装備が一新されるということは無かったでしょうが、占領地から前線に転任となる場合、最新仕様の装備に変更されたことは間違いありません。

photo5.jpg  
この写真はクルレ兵長がブレストの駐屯地で42年に撮影した写真です。左の兵士の持つ水筒のカップの色は黒です。

クルレ兵長はこの後フランスを離れポーランドのワルシャワを経由してスターリングラードでの勝利で勢いに乗る赤軍を迎撃すべくロシアへ向かいます。
続きの話はまたいつか。
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