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皮膚洗浄剤(Hautentgiftungsmittel)

皆さまこんにちは。
本日は少し重いテーマですが、毒ガスとその被害から皮膚を守る皮膚洗浄剤(Hautentgiftungsmittel)について書いてみたいと思います。なお皮膚洗浄剤については、以前ガスマスク付属品の中で既に取り上げております。

Losant3-1.jpg まず、毒ガスとは何んぞや?広義では火山ガスや排気ガスも含まれるようですが、ここでは化学兵器として軍事的に使用されるものを示します。種類としては催涙ガスから塩素ガスやホスゲンガス、マスタードガス(イペリット)やサリン、VXガスなどがあります。

sargent_gassed_1919_imperial_war.jpg

最初に使用されたのは第一次大戦のヨーロッパ戦線で、同盟国・連合国双方に多大な被害を及ぼしました。(英国国防総省によると化学兵器による両軍の死傷者は130万人、うち死者は9万人に上るという)

第二次大戦のヨーロッパ戦線において攻撃手段としての毒ガス使用は無かったとされていますが、1943年12月、イタリア南部のバリ港にて、アメリカの貨物 船「ジョン・ハーヴェイ号」がドイツ空軍の爆撃を受け、大量のマスタードガスが流出し、アメリカ軍兵士と一般市民617名が負傷、83名が死亡する事件が起こっています(ジョン・ハーヴェイ号事件

2day4io.jpg

では、マスタードガスが実際に人体にどういう被害を与えるのかWikipediaの説明を見てみたいと思います。

マスタードガスは人体を構成する蛋白質やDNAに対して強く作用することが知られており、蛋白質やDNAの窒素と反応し(アルキル化反応)、その構造を変性 させたり、DNAのアルキル化により遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮する。このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さ らに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発癌性を持つ。また、抗がん剤と同様の作用機序であるため、造血器や腸粘膜にも影響が 出やすい。

「皮膚や粘膜など冒す」とありますが、言葉ではよくわかりません。

そこで「mustard gas」でググってみました。

Googleロゴ

・・・うげげ、妊娠中の女性、心臓の弱い人、お食事前の人は絶対に見ないでください。

下はマスタードガスの被害にあった軍馬のイラストです。エグイですが、これでもまだマシな方・・・

rosan8-3s.jpg
馬好きの方すみません。。。映画「戦火の馬」を思い出してしまいました。

このように"非人道的"な為、敗戦色が濃厚になっても、ヒトラーは毒ガスの使用を絶対に許可しませんでした。ヒトラーは第一次大戦で一兵卒としてマスタードガス攻撃で負傷しており被害の悲惨さを知っていた為と言われています。(一方でガス攻撃は戦局を挽回するには至らず、その割りに過激な報復攻撃を招くという危惧もあったようです)

さて上記のような被害をもたらす毒ガスが皮膚に付着した場合、その箇所をすばやく洗浄しなければなりません。
その為の皮膚洗浄剤(Hautentgiftungsmittel) がドイツ軍で1935年に開発されました。

まずは前回の日記のコピペ。。。

◆ 皮膚洗浄剤(Hautentgiftungsmittel)

こちらの洗浄剤は1935年3月14日付けの陸軍通達(H.M. 141)により導入されました。 ベークライト製のコンテナーには洗浄剤のタブレットが10個入っており、マスタードガスが付着した肌を洗浄することができます。


     decontamination1-1.jpg

Hautentgiftungsmittel 皮膚洗浄剤
Nur äußerlich anzuwenden ! 皮膚への使用のみ !
Nicht in Augen und Mund und auf dieGeschlechtsteile bringen !  目や口、性器には使用しないこと!
Genitals ! Nach Ge-brauch Losantinbehälter mit dem Kle-
bestreifen wieder dicht verschließen. 使用後はボックスをテープでしっかりと封をする



     decontamination5-1.jpg

Anwendung: Täfelchen in der hohlen Hand zerdrücken und mit etwa gleicher Menge Wasser oder
Speichel einen Brei bereiten. 使用法: タブレットを手の平上で潰し、同量の水もしくは唾液でペースト状にする
Den Brei auf der vergifteten Stelle mehrfach leicht verreiben. 洗浄剤を汚染箇所に数回擦り込む
Nach etwa 10 Minuten Brei abspülen oder feucht abwischen.約10分後洗浄剤を水か布で拭う

とここまでが前回の日記のコピーです。

こちらはその後に入手した、Gasschutzleitfaden(ガスプロテクションガイド)です。

rosan13.jpg

野戦服の胸ポケットに入る大きさ(縦14cm横10cm)で、ガスマスクの着け方、メンテナンス方法、洗浄剤の使用法、ガスシートの被り方などが、写真付きで92頁に渡って書かれています。ちなみにポケット歌集とも同じサイズです。

manual-0.jpg  
64頁から皮膚洗浄剤の使用方法が記されています。なお翻訳はかなり適当ですので、"こんな感じ"程度にお考えください。

gasmanual-1.jpg
1.ガスの飛沫を叩いて落とす。決して綿棒で拭わない

gasmanual-2.jpg
2.タブレットをコンテナーから取り出す。

gasmanual-3.jpg
3.手のひらの上でタブレットをつぶし(水と混ぜて)ペースト状にする。

gasmanual-4.jpg
4.汚染された箇所にやさしく塗りこみ、最低10-15分おいておく。
その後、水できれば石鹸水か重曹水で洗い落とす。

ググった被害状況を見ていると、とても写真のような量では足りないように思いますが・・・

さて、コンテナーには製造年が刻印されており、密封用のテープの色でも製造年を一目で判別可能となっています。

rosan5.jpg
                  
~40年製
41年製 
黄緑42年製
43年製

rosan9.jpg
左から1940年、41年、42年、43年製です。残存率的には赤>黄>黄緑>黒の順番でしょうか?
 

Losant4-1.jpg  

こちらは43年製の洗浄剤ですが、中身を見るため開封しました。(写真撮影後は、慎重にテープを巻き直しました)

Losant3-1.jpg
70年の時を経て、洗浄剤は中で凝固してしまっており取り出せません。
なお洗浄剤には漂白成分が入っている為、熱帯用のコットン製の野戦服や装備品を古く見せるための脱色剤として使われたそうです。

軟膏タイプの皮膚洗浄剤(Hautentgiftungssalbe) も既に紹介済みです。まずは前回のコピペから。



haut4-1.jpg

◆ 皮膚洗浄剤(Hautentgiftungssalbe)

上記の洗浄剤は使用の際に水と混ぜる必要があり、アフリカなど水の入手が困難な地方では不便でした。そこで1941年に開発されたのが新型の洗浄剤、Hautentgiftungssalbe(41)です。

  GMAccy29.jpg
洗浄剤は軟膏タイプになり、このようなオレジンジ色のプラスチック容器に入れられました。

下記は専用のケースです。厚紙製で洗浄剤の容器、軟膏を塗る際に使用するコットンの収納ができます。

GMAccy11.jpg
Haut-entgiftungssalbe 皮膚洗浄剤
Gebrauchsanweisung auf den Innenbehälter beachten 中の容器にある使用法をよく読むこと
野戦服の中身でも書きましたが、皮膚洗浄剤は胸のポケットに入れて持ち運ぶこととされました。

下記は当時の取り扱い説明書です。

  Haut-ex1.jpg Haut-ex2.jpg
1. Geländekampfstoff dringt in die haut ein
1. ガスが皮膚に浸透

2. Abtupfen mit Tupfern, Tupfer vernichten
2. ガスを皮膚から取り除く(布か新聞紙を使用)

3. Behälter Schütteln, dabei verschlusskappe nicht öffnen
3. キャップを外さずコンテナー振る

4. Verschlusskappe abschrauben, Hautentgiftungssalbe auftragen
4. キャップを外し軟膏を皮膚に塗る

5. Hautentgiftungssalbe 5 minuten mit Finger einreiben
5. 軟膏を指で塗り5分間放置

6. Dann sofort oder später entfernen
6. 最後に軟膏を取り除く


これらの洗浄剤はすべてのドイツ兵にガスマスクと共に支給され肌身離さず持っているよう指導されました。
他の国が同様の洗浄剤をを持っていたかどうか分かりませんが、過剰とも言える装備を見るにつけドイツ軍がいかに毒ガス攻撃を恐れていたかが理解できます。


rosan6.jpg
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この記事へのコメント

- Rikkie - 2013年06月22日 00:53:47

どもども、エーデルマン殿。

鍛冶屋殿のリンクから飛んできました。
以前から関心深く拝見していたのですが、当方はそれほど詳しいわけではないので、コメントを差し控えさせていただいていました。本日は妻も先に寝て、一人ワインを楽しんでいるので末席に加えさせていただければとキーボードをたたいている次第です。

当方はそれほど第三帝国に詳しいわけではないのですが、やはり松本零士の戦場漫画でデビューさせて頂きましたから、ドイツ軍というのは確たる思いがあります。思い返せば、小中学校時代、メジャーな子供はドイツ軍ファン。ちょっと込み入った傾向があるのが日本軍ファン。もっと変わって人生に恨みがあるのが米軍ファン。もっとも社会に適応できないのがソ連軍ファンだった記憶がございます。いえ、当方は思春期にモスクワ放送を聞いて、「ゴルバチョフさんは一方的に1万両の戦車を処分しているのに、米帝は我軍の支援戦闘機としてF-16なんかを押し付けようとしてけしからん。」などと息巻いていたのも今は恥ずかしい。ちゃんと世間並みに「ねるとん紅鯨団」を見ていればよかったと深く後悔しているのですが、こればっかりは取り返しが効きません。戦車を処分すると言ったってT-55か、もしかしたらウラルのT-10だって含まれているのだろうということは、思春期の東方にも予測は付きました。なにしろ、ソビエトという国が無くなったのは拙僧が高校2年生の時です。その時には豊原で沿岸警備に配備している戦車がどう見てもT-10(もしかしたら、本当にJS-3だったかも)だってことは分かっていました。

ちなみに拙僧は北京戦車(担克)博物館でJS-2に這い登ったことがあります。いわゆる、タンクデサントを体験してみたかったのですが、ご存じの通り戦車というのは思ったより丈があるんですよね。フル装備であの高さから飛び降りるのは命がけ、というか不整地走行をしているあれにしがみつくのだけでも命がいくつあっても足りないな。と実感しました。北京戦車博物館で展示車両に登ったり、キューポラから中に入ったりすると、多分かなり怒られるので、試す時は誰もいないのを確認することをお勧めします。

ワタクシメ、それ程には詳しくないので本題に近づけなく、申し訳ないです。ふと、思い出したのは、ソビエトとその衛星国が消滅した頃に、それらの国々の軍装備が池袋や上野に安価に流れたことがありました。それで、ユーゴスラビア製のベルトポーチを買ったのですが、中に緑色の布きれが丸めて入っていたんですよね。スグに気が付きましたよ。これは迷彩色の包帯だとですね。

それと、ファイルポーチの話で思い出したのは当方のお爺さんは当方が生まれる前には人生を卒業したのですが、銃剣術の範士で近衛だったらしいんですよね。本当かどうかは分かりません。ただ、当時の手帳が出てきまして、それは紛れも無く万年筆で書かれた対戦車戦術でした。そんなお爺さんが人生の兆戦を続けていたのなら、中共の妻と国際結婚をする際にはエラク面倒な説明が必要だろうなと胸を撫で下ろした経験がございます。一応、妻の名誉の為に付け加えますと、我々は紹介業者の介入で結婚したのではなく、たまたま北京行の中国国際航空で席が隣になっただけです。この10年、当方は定職も無く、メジャー自動車企業のグループ会社で生産計画などを立てて妻が当方を食わせてくれています。それどころか、単車は2台買ってくれるし、車は2台目でオープンカーだし、カメラ・レンズ類は少なく見積もっても3グロスは転がっているし、妻の実家への仕送りで苦労している方には申し訳ないんだけど国際結婚って楽勝だなって感じです。

ドイツで関わり合いになりそうなのは義理姉の配偶者がドイツ系カナダ人なのですが、名前が「じゅう」です。白人なりのたちの悪い冗談か、親に嫌われたのかとひっくり返る程驚いたのですが、「じゅう」を称する民族の方がいらっしゃるというのは、当方が説明するのは面倒くさいので知らないふりをしました。

そういえば、20代の頃にツーリングで使っていた東ドイツ製のポンチョは、今でも大切にそういう目的で使っています。

- 鍛冶屋 - 2013年06月23日 01:12:05

>・・・ドイツ軍がいかに毒ガス攻撃を恐れていたかが理解できます。
後ろめたい事があるだけに、怖かったんでしょうね...。

そう云えば一時話題になっていた、大陸に遺棄されていると言われる
旧日本軍の毒ガス(砲弾?)はどうなったのでしょうか?。

Re: タイトルなし - エーデルマン - 2013年06月23日 05:04:23

> 鍛冶屋さん

>後ろめたい事があるだけに、怖かったんでしょうね...。

あと毒ガスの研究も進んでいた分、使えば被害が甚大なのをよく知っていたのでしょう。

>そう云えば一時話題になっていた、大陸に遺棄されていると言われる
旧日本軍の毒ガス(砲弾?)はどうなったのでしょうか?。

500億円(一説には一兆円)かけてまだ完全に回収できていないようです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E6%A3%84%E5%8C%96%E5%AD%A6%E5%85%B5%E5%99%A8%E5%95%8F%E9%A1%8C

Re: タイトルなし - エーデルマン - 2013年06月23日 05:10:06

> Rikkieさん

はじめましてこんにちは。鍛冶屋さんのブログでのコメントは何度も拝見しております。

>本日は妻も先に寝て、一人ワインを楽しんでいるので・・・

至福の時間にわざわざすみません。ぜひともお手柔らかに(笑)

> やはり松本零士の戦場漫画でデビュー・・・メジャーな子供はドイツ軍ファン・・・

確かにプラモデル、特に戦車の場合はタミヤのラインナップを見てもそれは感じますね。しかし戦艦や戦闘機になるとガラっと様子が変わって日本軍ファン、モデルガンの場合はコンバットなどの影響か米軍ファンが多かったと記憶しています。一方でソ連軍ファンは・・・子供時代は見たことはなかったですね。やはり隠れキリシタン的な存在だったんでしょうか・・・?

>ちゃんと世間並みに「ねるとん紅鯨団」を見ていれば・・・

自分は世間並に毎週きっちりと見て、男女の恋のかけひきの展開をワクワクしながら見ていましたが、それでもこんなオタクになってしまいました。

> ちなみに拙僧は北京戦車(担克)博物館でJS-2に這い登ったことがあります・・・

いやーうらやましい。モスクワ軍事博物館でT-34/85やKV-2にも登ってみたかったのですが警備が厳しくてできませんでした。ボービントンの戦車は警備が薄く柵も無いので今度機会があればハノマーク兵員輸送車に乗ってみたいと思います。

> それは紛れも無く万年筆で書かれた対戦車戦術でした。・・・

対戦車術といえばノモンハン事件を想定します。ひょっとして彼の地でBT-5戦車と対峙されたことがおありとか?

>国際結婚って楽勝だなって感じです。

国際結婚、特に日本人男性と外国人女性のカップルはうまくいかないといいますが、私の知っている方は皆さん夫婦円満です。一昔前の日本男児の亭主関白のイメージが根強く残っているせいでしょうか?

それではまたの訪問お待ちしております。

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脳内の99%をドイツ軍が占めている、そんなアラフィフ親父です。
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