ファットコンテナー (Fettbüsche)

本日はファットコンテナー(Fettbüsche)に注目したいと思います。ファットコンテナーは別名ラードケースやバターディッシュとも呼ばれており、雑嚢の中身の再現には欠かせないアイテムです。
実物の市場価格は30~60ドルと手頃な値段で売られており、状態が良いモノも多いのでリエナクトメントで気軽に使えるアイテムの一つでは無いでしょうか。

lardcase2.jpg
 
ファットコンテナーは直径11cmの円形のケースで、耐熱・耐油性に優れたベークライトで作られています。
カラーはオレンジと黒が一番多く、茶(黒っぽい茶や赤っぽい茶)のバリエーションもあります。なお非常にレアですが、ベージュ、白、緑のカラーも存在しているようです。ただし、コレクターの間ではそれらを見かけたらまず疑えっという意見が一般的です。カラーに頼らない見分け方があるので、そちらについては後で述べます。

ファットコンテナーの説明に移る前に、当時のドイツ兵に支給された一日分の糧食内容を見てみたいと思います。

種類 レーションI レーションII レーションIII レーションIV
ライ麦パン(コミスブロート) 700g 700g 700g 700g
骨つき肉 136g 107g 90g 56g
大豆粉 7g 7g 7g 7g
魚(頭なし) 30g 30g 30g 30g
野菜/果物 250g 250g 250g 250g
ジャガイモ 320g 320g 320g 320g
豆類 80g 80g 80g 80g
プディングパウダー 20g 20g 20g 20g
粉末練乳 25g 25g 25g 25g
15g 15g 15g 15g
その他調味料(マスタード・酢) 3g 3g 3g 3g
香辛料(胡椒・シナモン等) 1g 1g 1g 1g
脂肪(ラード)やバター
(マーガリンやジャムを含む)
60g 50g 40g 30g
コーヒー又は紅茶 9g 9g 9g 9g
ワイン(スピリッツ) .026qt (=25ml) .026qt (=25ml) .026qt (=25ml) .026qt (=25ml)
タバコ 7本 6本 3本 2本
総量(g) 1698g 1654g 1622g 1438g

※ここでは「
Rations of the German Wehrmacht in World War II」に掲載された、ドイツ兵士一人あたりの1日の最大供給量の表を参考にしています。

レーションI:戦闘に参加および負傷から回復状態にある兵が対象
レーションII:占領地に駐屯する兵および通信兵が対象
レーションIII:ドイツ国内に駐屯する兵が対象
レーションIV:国内で事務職にあたる兵および看護婦が対象

表にある通り、ラードもしくはバターの供給量は一日最大60gとされていました。(別の資料では72g)
ちなみに現代における成人男性の一日の脂質摂取量の目安は40~50gとされているので、ラードやバターだけで60gというとかなり多く感じますが、戦闘でエネルギーを消費する兵士にはそれだけのカロリーが必要だったということでしょう。

contener3.jpg

なお日本ではラードはラーメンのスープやトンカツを揚げる際に使われますが、ドイツ軍では(というよりヨーロッパでは)バターと同様パンに塗って食べます。(ラードパン=Schmalz brot)

lardbread.jpg
これもまだ食べたことがありません・・・バターより美味しいようですが、アイントプフ同様ぜひ食べてみたいですね。

上記のように定められた糧食も、兵站が伸びきって糧秣がきちんと届かなかった東部前線ではこの通りには配給されないケースが多かったと思われます。

極端な例ですが、包囲された後のスターリングラードで兵士に配給された一日分の糧食は良くて、パン75g、野菜24g、骨つき馬肉200g、脂肪12g、砂糖11g、飲み物9g、タバコ1本だったようです・・・

lardcase16.jpg
スターリングラードでの一日分の糧食。パンの上に乗っている白っぽいものがラードでしょうか?

さて、話をファットコンテナーに戻します。

FC2.jpg
ファットコンテナーの容量は220gとなっており、上記レーションI : 戦闘地域での3日分のラードが収納できます。
・・・と以前の日記で書いたのですが、実際に水を入れて計ってみたところ容量は170cc(g)でした。水とバターの比重は1対0.94なので、170 x 0.94=159.6gとなります。約2日半分ですね。

lardbread2.jpg
ドイツ兵は食事になると雑嚢からコンテナーを取り出し、中に入ったラードやバター(もしくはジャム)をコミスブロートに塗り食しました。上記の写真にもパンに何かを塗る兵士が写っています。

下記は“グロースドイッチュランド”師団写真史―東部戦線におけるGD機甲擲弾兵師団1942‐1944の中に掲載されている写真ですが、野外で食事を採る兵士の手元にはラードもしくはバターの入ったファットコンテナーが写っています。

lardcase21.jpg  lardcase19.jpg
写真の解説には「野営地で、あるいは戦場で、兵士たちは"ツェルトカメラートシャフテン Zeltkameradschaften"(文字通りの"テント仲間"を作った。それによって分隊のメンバーは互いに協力し、口糧やそのほかの何でも近隣で購入もしくは徴発したものを共同で管理した」とあります。
事実、写真でも5人が一つのファットコンテナーを共有しているように見えます。


“グロースドイッチュランド”師団写真史―東部戦線におけるGD機甲擲弾兵師団1942‐1944“グロースドイッチュランド”師団写真史―東部戦線におけるGD機甲擲弾兵師団1942‐1944
(1999/05)
トーマス マックギール、レミー スペツァーノ 他

商品詳細を見る


また横道に反れたので本体の話に戻しますね・・・
よく見ると右と左のファットコンテナーは蓋と本体に切ってある蓋ネジの粗さが違います。

lardcase17.jpg
以前は蓋ネジが細かく切られているモノは戦後生産という認識があったようですが、現在はどちらも戦時中に存在していたとされています。ただし条件があって、"四分の一の回転で蓋が開けられる場合においてのみ"戦中モノ"とされています。



lardcase25.jpg
こちらも〝四分の一回転〟で開けられる戦中バージョンです。
lardcase11.jpg
こちらは戦後ドイツ連邦国境警備隊(BGS)で使用されたものですが、蓋を開けるのに2回転を要しました。
もう一点、実物かフェイクか見分ける際の参考になるのが、下記のようなマークの有無です。

img36.jpg

このマークはベルリンのダーレムにあった材料試験機関(Material Prüfungsamt, Berlin-Dahlem)から、MPもしくはMPDマークと呼ばれています。3桁のメーカーコードと同じく、防諜を目的としたもので、一部ですがコレクターによってコードが解析されており、こちらこちらのサイトで照合すると作られた工場と材料がわかるようになっています。

lardcase10.jpg
工場コード: "AA"=不明 
材料コード: "K"=Believed to be a urine based compound with an organic filler.

lardcase6.jpg
工場コード: "1W"=Isolawerke AG, Birkesdorf bei Düren
材料コード: "S"=Carbolic Resin (Bakelit) with wood dust/sawdust (wood flour) filler.
"1943"は製造年

こちらのコンテナーには、MPマークではありませんが工場コードと材料コードがモールドされています。
lardcase8-1.jpg  
工場コード: "24"=Gebrüder Merten, Gummersbach. 
材料コード: "K"=Believed to be a urine based compound with an organic filler.
"3"は1943年の意味?

ところで 下記のようにファットコンテナーの中にガラスの容器が入っているものもあります。

FC3.jpg

かなりぶ厚いガラス容器です。このようなガラス容器をほとんど見かけることがないため、本来はセットになっているということを最近まで知りませんでした。やはり洗いやすいというメリットがある反面、割れやすい、重い、容量が少なくなる(100g程度に減少)というデメリットの方が多く、兵士が捨ててしまったのかも知れません。
実際、セットになっているモノのほとんどが工場もしくは倉庫で見つかったようなミント状態です。

さて、最後に一つ、疑問に思っていることがあります。それは"金属製ファットコンテナーは存在したのか?"です。

ファットコンテナーで検索するとアルミもしくは鉄製のコンテナーがヒットします。また資料本Rations of the German Wehrmacht in World War IIにも、アルミ製のファットコンテナーが紹介されています。



case2.jpg

どうやら以前の日記で髭剃り用として紹介したこちらのコンテナーがそれに該当するようです。
確かにこのタイプのコンテナーには、ガラスの容器が付いているモノも存在しており、上記のベークライト製ファットコンテナーとガラス容器が内蔵されているという点は共通します。

論より証拠ということで、当時の写真をくまなく探しましたが、残念ながらアルミ製のファットコンテナーを使用している写真は見つかりませんでした。

そんな時、ふと、ベークライト製のファットコンテナーが採用される前はどうしていたのだろう?という疑問が。
1938年以前も脂肪やバターが兵士のカロリー源とされていたのは間違いなく、携行にはなんらかのケースが必要だったはず。当時はファットコンテナーにアルミが使われていた可能性は十分あります。

結局、結論は出ないまま、まぁ "どっちにも使える" ということで深追いはしないことにしました・・・

lardcase1.jpg

lardcase13.jpg
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この記事へのコメント

- Rikkie - 2013年08月18日 18:55:23

どもども、エーデルマン殿。

ふむふむ、ラードケースですか。水筒や飯盒と違い、これは今まで全く関心を持ったことがありませんでした。
東部戦線ではともかく、北アフリカあたりでもラードはもったんでしょうか。
ちょっと、拙僧の稚拙な知識では東側や中華、皇軍の該当品は思いつきませんなあ。
良くて乾燥味噌に漬物、クジラの缶詰でしょうか。漢人には8宝粥(?)という、有名な粥の缶詰がありますが、あれは解放軍も使っているでしょう。

今回、帰省したのですが、拙僧の私物が母親の手でまとまっていました。
「東ドイツ軍のポンチョ用のポール」「本物のトーネード(攻撃機)のパンフレット(英語)」「ソビエト共産党の手帳」「周恩来さんの演説仕様の”紅旗”のプラモデル」「ユーゴスラビア製のベルトポーチ」など、つまらない物が無動作に詰め込んであって呆れましたね。

あと、米軍の弾薬ケースの中にカラーインクと複数のサイズのロットリングがあったのは、ティーンエイジの拙僧が何を考えていたかさっぱりわかりません。

Re: タイトルなし - エーデルマン - 2013年08月18日 21:32:13

Rikkieさん

いつもコメントありがとうございます!
そうですね、私も最初この趣味を始めてしばらくはラードケースなんてまったく知りませんでした。
物知り顔で書いてますが、今回の記事を書くにあたって知ったことも多く(実容量や見分け方とか)
まだまだ記事にできそうです。(ラードが北アフリカで使われたのか・・・うーん勉強します)

10代の頃の私物が残っているなんて羨ましいです。就職で上京する際にすべて処分してしまいました。
エ○本含め、恥ずかしいコレクションだらけでしたが、今からすればそれも人生における青春の一ページ、
残しておけば良かったと悔やまれます。

- 鍛冶屋 - 2013年08月19日 06:27:48

ちはっす エーデルマンさん。
日本は猛暑真っ只中! 煮えてまっせぇ~><)。

しかし・・・(米軍何かはもっとだけど)ええもん食ってマスなぁ。
皇軍の戦闘食なんか、いいとこ乾パンくらいだったでしょうに...。

そちらでは、あまりラードは使わないんでしょうか?。
南米は、けっこう料理にラード使っていましたが、流石にパンに
塗ってるのは見た事 無かったです。

Re: タイトルなし - エーデルマン - 2013年08月19日 20:22:17

ちはっす 鍛冶屋さん

謹んで暑中お見舞い申し上げます。
日本の暑さはよーく知っておりますが、今年はそれを遥かに越える暑さのようですね。
(鍛冶屋さんよりさらに南方にある実家から、毎日悲鳴が聞こえてきております)

確かに資料を見る限りは、当時のドイツ軍はええもん食ってますね。
これだけの食事を数百万人という生産性ゼロの兵士に毎日配給するわけですから、戦争がいかに多大な消費を伴うかがよく分かります。

こちらの料理はこってりしたものが多くラード(マンテカ)はかなり使われています。
ぽっちゃり系が多いのはそのせいでしょうか。

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脳内の99%をドイツ軍が占めている、そんなアラフィフ親父です。
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