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プルオーバーシャツ(Hemd)

今回の記事はドイツ兵士が野戦服の下に来ていたプルオーバーシャツ(Hemd)を取り上げたいと思います。

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ドイツ軍の野戦服についてはその特徴のあるデザイン性からも、兵士の家族によっては形見として、もしくは連合国兵士によって戦利品として持ち帰られたことで現在まで多くが残存し、それゆえ専門家やコレクターによって研究されたことで今日では多くの情報を得ることが出来ますが、その中に着ていたシャツについては、あまりに"普通"だったゆえに、戦後の物資不足で多くが日常生活の中で消費されてしまい当時の実物も情報も少ない状態です。なお本文の作成には、STEINER氏のサイトを参考にさせていただきました。

プルオーバーシャツは官給品ではありましたが、支給された以外に兵士個人や家族が購入した市販品を使用することも多かったようです。官給品にはサイズ(Gr.=Größe Nr)や製造年、工場ナンバー(RB. Nr)のスタンプが押されていましたが、何度も洗濯するうちに消えてしまい市販品や戦後作られた軍用品(実物)、フェイクとの区別が難しくコレクター泣かせのアイテムの一つとなっています。

今回紹介するプルオーバーシャツは数あるバリエーションのうちの一部ですが、戦前・戦争初期・戦争中期に導入されたプルオーバーシャツの特徴は説明可能です。

それでは、まずは初期の立襟(ステンドカラー)のプルオーバーシャツ(以後、ヘムト)から見てきたいと思います。

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こちらはライヒスヴェーア時代の1933年に導入されたコットン製のヘムトで、野戦服のように"M33"と呼ぶコレクターもいますが、一般的ではありません。経編みメリヤス(通称トリコット)の為、伸縮性があります。着丈は95cmと非常に長く、当時の平均的なドイツ人男性の身長だと膝上くらいまでの長さになります。

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前スリットの開口部は53cmで、3つボタンになっています。ボタンの表面は布製ですが、中身は固くプラスチックの様です。(こちらと同じですね)
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上段両端のボタンです。
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襟は初期の特徴であるステンドカラーで2.5cm幅です。第一ボタンは二か所のホールで留められるようになっています。「40」のスタンプは製造年では無く、首回りのサイズとなります。

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ステンドカラーのヘムトを野戦服の中に着る場合、肌が直に襟に触れるため汗や皮脂などで汚れてしまいます。野戦服は洗濯できない為、ハルスビンデもしくはクラーゲンビンデを付けて汚れたら取り外して洗濯することとなっていました。(ハルスビデ・クラーゲンビンデについて過去の記事はこちら)  

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前立て部分に「II」のスタンプがあります。こちらはサイズ番号(Größe Nr)で、IIはMサイズを表します。(サイズ表記はI~IVまであり、IはS、IIはM、IIIはL、IVはXLとなります)

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上記はReibertの軍装品に関するページですが、ヘムトのスタンプ箇所については記述と一致しています。

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袖丈は32cmで脇下には三角形のマチがあります。

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袖口のスリットは13cm、ボタンが一つです。

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両サイドの裾には18cmのスリットがあり、上部3cm部分にマチがあります。

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こちらは当時のプライベート写真ですが、奥のサスペンダーをした2名と後列の右から2人目の兵士はステンドカラーのヘムトを着用しています。それ以外に白いヘムトは、襟の無いタイプで就寝用ヘムト(Nachthemd)と思われます。

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続いて襟付きのヘムトです。襟付きヘムトは1938年ごろに導入されました。この頃はまだ胸ポケットがありません。

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襟は襟先が長く尖ったタイプです。ファッション業界ではバリモア・カラーと呼ばれており『グランド・ホテル』(1932年)などに出演したハリウッドスターのジョン・バリモア(1882年2月15日 - 1942年5月29日)が着用したことが由来のようです。当時の流行だったのでしょうか。

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こちらのヘムトはフィールドグレイのコットン製で着丈は68cmと短めですが、身幅は54cmありサイズ的にはIII(L)といったところでしょうか。
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前スリットの開口部は32cmで、こちらは4つボタンとなっています。

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このヘムトは軍用ということで入手しましたが、官給品では無くフランス製やドイツでも市販品の可能性があります。ちなみに軍用の根拠は、ボタンがドイツ軍装で良く使用されているアルミ製の皿ボタンだったから・・・
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袖丈は35cmです。かなり青に近いフィールドグレイですね。

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さて、ヘムトの紹介は一旦中断してお約束の『戦争のはらわた』からの引用です。

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今更説明するまでもありませんが、この映画は軍服や戦功章など、細部に至るまで時代考証がしっかりとされており、ヘムトについても登場人物毎に種類が違うのはもちろん、汚れや破れ、くたびれ具合がリアルで非常にマニア受けする設定となっています。

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地下壕でマイヤー少尉の誕生日を祝うシーン。マーク(右)はマウスグレーの襟付きヘムトで、胸ポケットにはプリーツ無し、ディーツ(左)は白いステンドカラーのポケット無しヘムトを着ています。ディーツがシャツの下にヒトラーユーゲントのスポーツシャツ(1938年に廃止された初期タイプ)を着こんでいるのが面白いです。

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こちらは後方の病院のシーン。車椅子の傷病兵が着ているヘムトは市販品と思われるチェック柄、隣や後ろの兵士が着ているシャツも市販品と思われます。

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出ました!シュタイナー曹長のヘムト姿です。これと同じ襟付き胸ポケット付きマウスグレーのヘムトが欲しくて長年探し求めてしましたが、このたび念願叶って入手することができました。

それがこちらのヘムトです。

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STEINER氏によれば、ヘムトにポケットが付けられたのは1942年の中頃とのことです。ポケットにプリーツがあるタイプと、無いタイプの二種類が存在しています。こちらはマウスグレーのヘムトで、スタンドカラーのヘムトと同じくコットンのトリコット製となっています。身丈は98cmで身長176cmの私が着るとちょうど膝丈の長さになります。
 
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こちらの襟もバリモア・カラーです。衿台の部分にスタンプが押されています。

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スタンプのクローズアップ。「IV」はサイズでXL、「44」は首回りのサイズです。

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前スリットの開口部は60cmで、4つボタンになっています。

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当時の写真を見るとヘムト姿の兵士の多くは暑いのか、あるいはリラックスした状態のためか、第一あるいは第二ボタンまで外しています。
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袖口には18cmのスリットがあり、紙製ボタン2個で留められるようになっています。

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両サイドの裾には23cmのスリットがあります。

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こちらもプライベート写真から。白いスタンドカラーやマウスグレーの襟付きヘムト(半袖)以外にも、Tシャツのような下着を着た兵士もいます。このように実際には兵士が着ていたヘムトは野戦服と同様、同じ部隊でもバラバラだったと思います。

最後にヘムトは下着(特にパンツ)として使用されていたのか?という疑問について検証したいと思います。
実物を見れば当時のヘムトの丈は非常に長く、臀部や鼠径部はもちろん、膝近くまで覆うことが可能です。下着の基本的な役割が、①保温し、汗を吸収し体温を調節する。②汗や皮脂などを吸収し、洋服の汚れや傷みを防ぐ。③性器を隠す のであれば、ヘムトだけでも十分機能を果たすことは可能です。
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それではゾルトブーフの支給品のページを見てみましょう。下記は以前紹介した第7山岳師団Robert Weger兵長のゾルドブーフの装備品ページですが、ヘムトと同じ数のズボン下(Unterhose)が支給されています。
このUnterhoseは股引(もも引き)のような形状で股下が足首まであるものです。(下着についての過去の記事はこちら
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しかるにドイツ兵は通常パンツを履いていたと考えるのが適当かと思います。

ただし前線では洗濯もままならない場合が多く、何日も同じパンツを履くのは衛生的かつ精神的にも好ましくはありません。そのような場合、下着としても機能するよう敢えて丈の長いヘムトが兵士には支給されたのでは無いでしょうか。


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この記事へのコメント

- oTTo - 2020年09月06日 16:10:43

ヘムトは他にも捕獲品が大量に使用されたので、ドイツ軍が使用した物は大変な種類になるでしょう。特にボタンダウンのフランス軍の物は恐らくその洒落たデザインと良質の薄手のコットンが人気だった様で、デザインを踏襲したドイツ製の物も確認されています。随分前に黒のコットン製、プリーツ無し胸ポケット付きの物は胸ボタンが三つ穴アルミ製が付属、肩には装甲科少尉の肩章が挿してあり、実戦感が漂う良い物を見た事が有りましたっけ。

Re: タイトルなし - エーデルマン - 2020年09月08日 07:16:18

oTToさん

>ヘムトは他にも捕獲品が大量に使用されたので、ドイツ軍が使用した物は大変な種類になるでしょう。特にボタンダウンのフランス軍の物は恐らくその洒落たデザインと良質の薄手のコットンが人気だった様で、デザインを踏襲したドイツ製の物も確認されています
そう意味では『戦争のはらわた』は様々なヘムトが出てきて、当時の状況をきちんと再現していますね。一方で部隊全員が官給ヘムトしか着てない『ジェネレーション・ウォー』は残念評価です。
官給ヘムトは高騰していて実物を集めるのはこれ以上は無理ですが、肩章、国家鷲章付ヘムト欲しいですね。

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